変形性膝関節症の解決の糸口(会長著作本から抜粋)

 日本で1000万人以上の人が発症しているといわれる疾患に、変形性膝関節症があります。これが、老化による骨や軟骨組織の変形や逸失を基盤とする、加齢性疾患であることは広く知られています。私たち人間の体は、全ての器官が血液の循環によって酵素やグルコースが供給され、またそれによって生じる老廃物や、役割を終えた細胞塊等の排泄がなされて、正常な生命活動が果たされています。そして、さらにミクロの目で膝関節を観察すると、変形性膝関節症の成り立ちにヒントが生まれます。

 膝関節は、ヒトで最大の関節で、大腿骨と脛骨(スネの骨)をつなぎ、これに膝蓋骨(膝のお皿)を加えた三つの骨から成り立っています。大腿骨と脛骨の顆部は、その接触面が軟骨で覆われ、さらにこの関節面には、三日月形した半月板と呼ばれるクッションを備えています。

 この膝関節は、全体を滑膜という薄い膜でできた関節包に包まれています。実はこの滑膜は、変形性膝関節症という病気の成り立ちに大きく関わっているのです。滑膜は、関節包を形成する滑膜表層細胞と呼ばれる1~3層の間葉系細胞と、表層下の粗い結合組織と、血管や神経からなるインチマ(intima)と呼ばれる滑膜下層から成り立っています。さらにその外層には、サブサイノビアム(subsynovium)と名付けられた層が存在しています。重要なことは、このサブサイノビアムには、リンパ管が存在しているということです。リンパ管は、関節腔内で生じる様々な老廃物を、外部へ排出するという重要な役割を持っています。

 関節腔内に貯留する関節液は、主にヒアルロン酸と血漿が主成分となっていて、粘度が高いことで知られています。
何十年も私たちの歩行や大きな動きを支える膝関節の摩擦係数は、スケート滑走時の10分の1ほどの低さだといわれますが、そのような驚異的現象を可能にしているのは、このヒアルロン酸と血漿が大きな役割を果たしているのです。

 大きな膝関節にもかかわらず、決して多くもない少量の関節液は、関節内の全ての組織に浸潤して、関節軟骨や半月板などの軟部組織に酵素や栄養を供給し、同時に骨同士の摩擦抵抗を減らしているのです。

 私たちの膝関節内には、血管や血液は存在せず、滑膜下層にある豊富な微小血管網によって、酸素やエネルギー、水などが供給され、主成分であるヒアルロン酸が滑膜細胞で産生されて、関節包内に供給されているのです。また先述したように、関節内で生じた役割を終えた細胞塊や老廃物は、リンパ管によって排出されています。
 
 私たちの膝関節は、酸素やエネルギーなどを関節包である滑膜を通して供給しながら、リンパ管によって老廃物等を排出して、供給―排出の一定のバランスによって生々流転しているわけです。ですから、関節内が正常に機能して、その組織を正常に維持するために必要なものは、正常な循環に尽きるといえます。

 ところが、ひとたび血流が低下すると、関節内へのヒアルロン酸産生の減少と共に、滑膜を通して果たされていた関節内の全ての組織への水、血漿タンパク等が欠如することになります。私は前著『長生きのスイッチを教えます』で、「虚すれば沈殿し凝塊を起こす」というセオリーを提言しました。東洋医学では、「虚」という概念が存在します。「虚」とは、空、少ない、失う、弱い、という概念であり、ここでは血液が不足した事象を指します。すると何が起こるかは、私たちの周囲の環境を見ると、容易に理解できます。日本では上水道は、川の水を浄水場に引きこみ、水の流れをゆっくりにした環境に誘導していますが、これは、川の水の中に含まれる不純物を沈殿させるためなのです。

 私たちの身体や関節の中でも、同じような作用が起きると考えられます。
つまり、血流低下や関節液の低下は、流速の低下を招き、水と同じように成分の沈下・沈殿を起こします。それは膝関節内に脱落した細胞塊や、代謝により発生した老廃物等の沈殿が起きることを示唆します。

 変形性膝関節症では、関節軟骨の変形やデブリス(沈殿物)の存在が特徴的ですが、これらは血流低下による関節液量の低下による現象と考えられるのです。「変形性膝関節症は血流低下によって起きる」という私のセオリーは、膝関節周囲を観察すると、さらに真実味が深まります。膝関節を維持する大腿四頭筋の委縮です。私たちの血液の大部分は骨格筋、つまり、筋肉の中にその大半が貯溜されていますが、骨格筋の中でも最も大きな筋肉である大腿四頭筋の委縮は、そのことを如実に示しているといえます。

 ところで、膝関節内でも、私たちの身体を外敵から守る免疫細胞が豊富に存在して、関節内の免疫を担っています、免疫細胞の数は、若年層と老年層ともさほど違わないといわれています。けれども成年になると、免疫細胞の司令塔であるT細胞の成熟や、自己を攻撃するT細胞を除外する負の選択が実施される胸腺が、委縮して機能しなくなることがわかってきました。つまり、自己免疫疾患を引き起こす可能性が高まるのです。

 私は以前から「諸々の病気は血流の低下によって起こる」という仮説を主張してきました。病気の本当の根源は、血流の低下という単純な出発点であったと考えられるのです。例えば、難病の慢性関節リウマチも、加齢性疾患である変形性膝関節症も、その病態はよく似ていることに気付かされます。それは、関節炎の進行や関節内の骨融解の進行による、関節破壊です。

 最近これらの骨破壊や関節炎症に、T細胞が関与しているという報告が数多くみられます。私たちの血液中の白血球は、私たちの身体からみた細菌やウィルスなどの外敵を排除するという免疫の重要な役割を担うことでした。 
この免疫を担う免疫細胞は、昆虫から人にまで存在する「自然免疫」と、哺乳類などの高等動物にしかない「獲得免疫」に分類されます。自然免疫では、病原体を取り除く方法として、まず食べるという防御機能が働きます。自然免疫の主体は、貪食といって病原菌等を食べて宿主を守るのが主体となっています。しかしながら、血液中の小さな病原体や細胞内の病原体などは苦手とされています。これらや、自然免疫ではカバーしきれない、血液中に流れている毒素分子などに対処するのが獲得免疫なのです。

細胞内の病原体でも、感染細胞が死んだら、病原体そのものやその破片を免疫系が取り込み、樹状細胞はこうして取り込んだ病原体の情報を、ヘルパーT細胞(Th細胞)とキラーT細胞に伝えます。ヘルパーT細胞は、B細胞に抗体を作るよう指令を出します。

このTh細胞は、産生するサイトカインによって、さらに分類されます。
古くから細胞障害に関わるとされ、インターフェロンγ(IFNγ)などのサイトカインを高産生するTh1細胞。ぜんそくなどのアレルギーに関与すると知られ、インターロイキン4(IL-4)などのサイトカインを産生するTh2細胞。さらに近年になって、インターロイキン17(IL-17)などのサイトカインを産生し、細菌感染や真菌(カビ)感染に重要な働きをするTh17細胞に分類されました。
 従来は、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患では、Th1細胞が主要な役割を果たしていると考えられていました。一方、Th17細胞は、胸腺から送り出されたナイーブT細胞から、IL-6とTGFβによって分化誘導されることがわかっていて、IL-1、TNFαにより増大するといわれています。マウスの実験において、Th17細胞への分化を抑制しているサイトカインをノックアウトすると、Th17細胞が増大し、マウスにおける種々の病勢が悪化しました。
Th17細胞の産生するサイトカイン、インターロイキンIL-17は、複雑なメカニズムを経て慢性炎症を引き起こし、関節破壊を促進させていたのです。その主な作用は、次の通りです。

1)IL-17は、マクロファージや線維芽細胞に作用して炎症性サイトカイン産生を促進させる。
2)IL-17は、血管の上皮細胞と好中球に作用して造血を亢進させ、炎症局所に好中球を遊走させる。
3)IL-17は、間葉系細胞に作用して、メタロプロティナーゼ(MMPs)の発現を亢進させ、骨融解を促進させる。
4)IL-17は、単球前駆細胞に作用して、破骨細胞への分化を促進する。

 これらの作用により、Th17細胞は関節炎を引き起こし、さらに関節炎を亢進させ、骨を融解させるだけでなく、本来骨を作る細胞を、骨を破壊する細胞へ分化させるなどして関節破壊を進めるのです。このように、関節炎におけるTh17細胞や自然免疫の活性化が、重要な役割を果たすとの知見は、ゆるぎないものとなってきました。それだけではありません。本来、自己に対して寛容であるべき免疫体系が、血流が低下していくと必然として、免疫細胞の凝集が引き起こされます。
するとカオスに陥り、免疫体系が無秩序に陥るのです。

 無秩序の環境下では、本来免疫系の司令塔であるべきT細胞が、無秩序にサイトカインを放出します。
そして本来、外敵である病原菌などに向かうはずのマクロファージなどの自然免疫細胞が、自己組織に破壊を繰り返すだけでなく、Th17細胞が活性化され、Th17細胞の放出するインターロイキン17によって、骨を融解したり、破骨細胞へ分化させたりして、関節破壊が繰り返されます。
 最新の知見では、このような無秩序の環境では、免疫寛容の担い手であり、免疫細胞の抑制役である制御性T細胞(Treg)が、Th17細胞へ分化することまで起きていることがわかってきたのです。
 すなわち、血流が改善し、こうした免疫機能が正常化されることが、関節破壊を止める手だてだったわけです。実際に「ストレスフリー療法」によって、血流を改善することで、変形性膝関節症による疼痛や、関節可動域の障害を伴った変形性股関節症なども大きく改善され、歩行が著しく正常化された症例は多く見られます。また変形性膝関節症で正座をあきらめていた方で、知らぬ間に正座していたという現実も存在します。

= ストレスフリー療法研究会 了徳寺健二会長著『長生きのスイッチ』より抜粋 =