記憶力向上とストレスフリー療法 ~驚くべき記憶力の向上~(会長著作本より抜粋)

 私たち人類が、地球上でほかの生物を制して繁栄を勝ち取ったことへの大きな第一歩は、立位歩行にあったといえるでしょう。
人類は、立位歩行によって手を自由にした結果、道具を使うことを覚えました。同時に、動物やケモノが恐れる火を利用する術も獲得していきます。それらの進化は著しく脳を発達させ、進化することに結びついたことは、いうまでもありません。

人類の発展に大きく貢献した私たちの脳は、他の器官には無い特殊な環境におかれています。私たちの脳は、体重比ではわずか2%を占めるにすぎませんが、酸素やブドウ糖(グルコース)などのエネルギーは、全身で使われるうちの20%も消費します。

 このことは、脳が私たち生命体にとって、いかに重要な働きや特別な存在であるかを物語っています。この脳の働きに関しては、広範な研究や発見が続いていますが、まだまだわからないことも多いというのも事実です。私たちの体の精緻な構造や働きを指して、小宇宙と表現されることがありますが、この脳の中にもまた、ミクロの広大無辺の世界が広がっているのです。

 私たちの脳は、約1000億の神経細胞によって成り立っています。さらにこの1000億の神経細胞が、密接に連絡を取り合うことで、私たちの体は機能しているのです。

~驚きの脳の仕組み~

 従来はこの脳細胞が、記憶や考える主役と思われていましたが、最新の研究によって脳内の細胞は神経細胞だけでなく、その働きを支えるグリア細胞の幅広い活動と、その存在が、明らかになってきたのです。グリアとは、膠(にわか)を意味するギリシア語に由来し、神経細胞同士の間隙に存在しています。

 グリア細胞は、血管壁から栄養分を吸収し神経細胞を養っているのです。それだけではなく神経細胞の保護や処理まで、広範囲の働きが知られるようになってきました。そしてコンピュータの回路などはるかに及ばない、1000億にも及ぶ脳細胞が、超精密な神経回路を形成して機能しているのです。この回路の中に存在する神経細胞同士の接点をシナプスと呼びますが、このシナプスの総数が、人間の脳では1000兆個に及ぶとされ、想像もできないスケールと膨大な回路が存在しているのがわかります。

 個々の神経細胞は、1分間に数万回の情報をやり取りしていると言われ、私たちの想像もできない精緻な世界があることに驚かされます。

 さて、これらの神経細胞には、大きく3つの構造が存在しています。そのひとつは、中心となる細胞体であり、中に核を有します。あとの2つは、樹状突起と軸索という2種類の突起からなっています。樹状突起は、太くて短い円筒状の突起になっており、分岐を繰り返しながら、樹のように枝を広げていくことから、このような名前が付けられました。
 
 軸索は、ひとつの細胞体から1本だけ伸びる突起が基本となっていて、長さは数ミリから、長いのは1メートル以上にもなるものまで、様々であるとされています。
軸索は、枝分かれして他の神経細胞とつながっています。2つのニューロンは厳密には0・02ミクロン程の極めて狭い間隙を作って接しており、このつなぎ目をシナプスと呼んでいます。ひとつの神経細胞には1万個以上のシナプスがあり、脳全体では1000兆にものぼると考えられています。想像もできないような複雑なネットワーク構成されているのです。
 
 皮膚などから刺激が入ると、神経細胞の細胞膜の電位が高くなり、電気信号が軸索へと伝わっていきます。これを発火といいます。軸索の末端は、また他の神経細胞とシナプスでつながっていますが、そこでの電気信号は、アセチルコリンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質と呼ばれる化学物質に変換されて、隣の神経細胞へと伝わっていきます。

 そこで信号は再度電気信号へと変換され、軸索に伝わっていくのです。このように電気的信号と化学反応が繰り返されながら、シナプスの取り持つネットワークを、信号が伝わっていくシステムなのです。

 では記憶は、このネットワークの中に、どのような形で蓄えられていくのでしょうか。
 以前は、神経細胞ひとつひとつの中に記憶が記されるとされていましたが、最近では、神経細胞とシナプスによって形成される神経回路のつながり方ではないかという説が、有力になっています。つまり、学習によって、シナプスのつながり方が変化するというわけです。粘土をこねて形を作ると、手を離してもその形が維持されます。この性質を可塑性(かそせい)といいますが、同様に記憶や学習によって、これまでの神経回路のパターンが変化して、その変化したパターンがそのまま残存するのではないかと考えられており、
これが記憶ではないかとされているのです。

 この「シナプスの可塑性」は、半世紀ほど以前は仮説として唱えられていましたが、1973年に、ウサギの海馬の神経細胞に、繰り返して電気刺激を与えると、シナプスの信号伝達効率が向上して、その後は刺激を与えなくても、伝達効率が落ちなくなることが確認されたのです。

 これはLTP(Long-term potentiation)長期増強という現象で、現在ではこれが記憶のメカニズムとされています。脳の中で、記憶に大きく関わっているのは「海馬」です。
 海馬は、側頭葉の奥、大脳辺縁系にあり、私たちヒトの場合、小指ほどの大きさとされています。海馬とは、「タツノオトシゴ」のことを指しており、海馬がタツノオトシゴの尾に似ていることから名付けられました。海馬は1000万個の神経細胞からなっていて、感覚から入ってくる情報を選別し、短期記憶を長期記憶に固定化するなど、記憶を管理する重要な働きをしていると見られています。海馬にある神経細胞に電気信号が流れると、シナプスでは神経伝達物質が放出され、それを隣の神経細胞の受容体が受け取り、新しい神経回路が誕生します。これが短期記憶です。そのまま放っておくと、次第に電気の流れは消えて、神経伝達物質の放出も無くなり、記憶は消えます。

 けれどもこの記憶に注意を続けたり、何回も思い出したりすると、神経細胞には強い電流が流れるほか、シナプスからの神経伝達物質も量が増えます。

繰り返されることによって、シナプスでの情報伝達がよりスムースに、より速く行われるようになるのです。さらに増強された電位が、長期にわたって保持されるようになった状態が、先に述べたLTPです。強いLTPが起き、さらに繰り返されることで、長期にわたって保持される神経回路が出来あがり、これが長期記憶のもととされます。けれどもこの記憶も、そのままでは消えてしまいます。さらにその後も記憶が思い出されたりして、ある一定値(閾値という)を超えると、新たな神経細胞の樹状突起や軸索が生まれ、この神経回路が、大脳皮質の至る所に転写されるのではないかと、考えられています。

このように神経回路が海馬から大脳皮質に移設されることで、安定した長期記憶となると考えられています。

~驚くべき記憶力の向上~

 私はこのような一連の脳の記憶システムやその生成過程、例えばシナプスにおける神経伝達物質の存在や合成、また長期記憶に至る過程での強い電気の惹起(じゃっき)、さらにはその神経回路の転写に必要なたんぱく質の生成などは、正常で豊潤な脳血流の存在なしには成し得ないと考えます。私たちが開発した「ストレスフリー療法」は、末梢の血流だけでなく、脳血流もおよそ2倍に増えることが、多くの臨床例から確認されています。
結果として、うつ病の改善や認知症にも著効を示すことが確認されました。しかしそれだけでなく、この豊潤な血流上昇は、脳の働きを必ず回復させたり、向上させると主張してきました。

 脳の働きのうち、運動器関係に関しては、柔道選手のコンディショニングの向上が裏付けていますが、学習能力や記憶にも、大きな効果が発生しているのではないかと、主張し続けてきたのです。
 
 そこで、了德寺大学の学生たちに協力を依頼し「ストレスフリー療法」実施前後における記憶テストを実施しました。予め7桁の番号を無作為に10問準備し、それを3秒間凝視させた後に小運動により記憶を干渉させて、7桁の番号を思い出してもらいその正答率で短期記憶の定着を調べる比較テストです。結果は私が予想した通り、「ストレスフリー療法」による頭部への大幅血流の増加は高度に有意となる結果が示されたのでした。
さらに、隔日で2回目の「ストレスフリー療法」実施後の短期記憶はさらに向上したのです。

~新しい医学への期待~

 実験の結果、「ストレスフリー療法」実施後には人の短期記憶が大幅に向上することが確認されました。短期記憶の集積が、長期記憶に発展することは良く知られていることで、受験生への朗報ともなるでしょう。

 受験生は過酷なストレスと、睡眠を惜しんでの努力が要求されるのが常ですが、「ストレスフリー療法」をわずか15分受けるだけで、ストレスをとり良質な睡眠が得られるだけでなく、腸管の蠕動運動を亢進させ、消化吸収と共に、排泄機能を高め、全身の血流を高めて、各種疾病を駆逐するだけでなく、記憶力を大いに高め、学習効果を高めることになるのです。

 さらに学習能力の向上はもちろん、研究開発力の向上・生産現場における不良率の改善や、事故減少による安全への寄与、長距離運転時の事故防止などにも寄与することでしょう。

 「ストレスフリー療法」による記憶力の向上のメカニズムについては、これからの更なる総合的研究と共に、この「ストレスフリー療法」の研究開発に添う、動物モデルの作製が急がれるところです。いずれにしても、脳細胞の活性化には、豊潤な血流量が必須であることは誰もが認める条件です。

 「ストレスフリー療法」の普及発展は、国民の疾病率を大幅低減させると共に、国家全体の安全向上、国家全体の研究開発力や生産性をも高め、国家予算の大きな比率を占める医療費の大幅な低減につながることを期待してやみません。

= ストレスフリー療法研究会 了徳寺健二会長著『長生きのスイッチ』より抜粋 =